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粒子が紡ぐタイポグラフィの宇宙

画面上を漂う粒子が結合し、文字へ、語へ、やがて文へと立ち上がっていくプログラムを中心とした、タイポグラフィにまつわるインスタレーション《cosmo-typesetting automaton》。粒子が秩序を持ち、構造を成していくその過程は、まるで宇宙の塵が星を形成していく営みのようでもあります。
この作品の着想自体がコンステレーション(星座)のように繋がったと話す畔上さんの視点や、高校時代から熱中してきたタイポグラフィに興味を持った原点を探ります。

卒業制作についてお聞きします。

───作品のコンセプトについて教えてください。

プログラムによる映像作品です。バラバラの粒子が徐々にくっついて、文章のような状態へと構造化されていきます。

最初の状態では、画面上に白い粒子がたくさん散らばり、動きまわっています。粒子同士が接触すると、ルールに従って結合していきます。それを繰り返すことで、粒子が集まって文字のかたちになり、文字が並んで語になり、語がつながって文になり……というふうに階層的にテキストが組み上がっていきます。

人間による操作を介さず、インクの粒が自分たちで集まり、結晶化して、文字やテキストを構築するようなイメージです。

───なぜこの作品を作ろうと思ったのですか?

タイポグラフィとは本来、活字を紙面上に配列する技術のことを指します。そこでまず必要になるのが、数値と規則のコントロールです。文字のサイズ、字間、行間、揃えなどは、どれも基本的には数値によって指定されています。また、この記号は行頭に置いてはいけない、この文字とこの文字が並んだら間を詰める、といったような無数のルールも存在しています。つまり、タイポグラフィはシステム性の強い実践だと言えます。

この作品では、そのシステム性をプログラミングによって変な方向に拡張することを試みました。それによって、文字が組まれていく過程そのものが作品として成立するような状態を、実験的に作り出せないかと考えたんです。

そのうえで具体的なイメージとして参照したのが、自己組織化という現象です。ごく単純化して言うと、小さな要素のふるまいの相互作用によって複雑で大規模な構造が立ち上がってくる現象で、結晶の形成や植物の成長などを説明するのに用いられます。

このイメージとタイポグラフィのシステムとを重ね合わせることで、最初に説明した粒子の集合による文字の構築というアイデアに至りました。

───本やポスターもあるんですね。

はい。本と大判のポスターも制作しています。本は1000ページぐらいあります。

本は動作過程を封入したアーカイブ、ポスターは一瞬の状態を切り取ったコンポジションとして位置付けています。

やはりタイポグラフィへの関心からスタートした制作なので、最後はタイポグラフィの伝統的な支持体に回帰するような構成にしたいと考えました。

───この作品の着想はどこから生まれましたか?

ゼミで進捗発表をする前日の深夜に唐突に思いつきました。そのまま徹夜でプロトタイプを作って持っていった記憶があります。

それ以前の時期には、タイポグラフィのシステム性や、組版におけるミクロとマクロの関係性に着目して制作をしていました。

そのときに考えていたことをベースに、向井周太郎(*1)、ゴムリンガー(*2)、清原悦志(*3)、ライフゲーム(*4)といった多くのリファレンスが脳内で謎結合した結果として、ポンと出力された感覚です。

向井周太郎の「コンステレーション」という概念(ばらばらなものが偶然に出会い、関係づけられることで、星座のように新しい意味や認識を立ち上げる生成的な配置)を念頭においた作品ですが、それを着想する過程自体もコンステレーション的だったといえるかもしれません。

自分の場合、ブレインストーミング的な風通しのよい場所ではなく、乱雑で個人的な場所からアイデアが出てくることが多いです。

───この作品の制作中に印象に残っていることはありますか?

映像を見た人たちが、さまざまな種類のメタファーを使ってこのプログラムから受け取ったイメージを伝えてくれたことですかね。宇宙、生命、分子、文字や言語の発生、といったようなさまざまな言葉が出てきました。

タイトルにcosmoという接頭辞を冠することにしたのも、そのような会話を経て決めたことです。

───制作をしている中で、自分の中で好きだと思ったところはありますか?

最初のプロトタイプができたとき、自分で20分ぐらいただ眺めていた時間がありました。じっと見続けられるものになった気はしています。そこは良かったところです。

───この作品のなかで自分らしさや自分自身がでたところはありますか?

道具をいろいろ使える、みたいな意味での器用さは出たと思います。AIや他人に頼りながらですがプログラムも書いたし、製本や什器設計も自分でやりました。途中で手が足りなくなり、人に頼んだほうがよかったと思ったこともありましたが、ひとつひとつ自分でコントロールできたのはよかったです。

創作の原点についてお聞きします。

───畔上さんがクリエイターになる原点となった体験について教えてください

小学生の頃、親にiPadを買ってもらったことが大きかったです。たくさんのアプリを組み合わせて、しょうもないコラ画像を量産していました。コンピューターを使った制作という意味ではそれが原点だと思います。

中学生になると、課題の壁新聞を勝手にiPadでレイアウトして提出したり、学校のイベントのチラシを教師に頼まれて作ったりしていました。それで「デザイナー」というあだ名をつけられたことで、グラフィックデザインを職業として意識するようになりました。

文字やフォントに対する関心も、そういった制作の中で自然に芽生えました。

───高校生のころからタイポグラフィの制作をしていましたが、そのきっかけはなんだったのでしょう?

高校は普通科に進学したのですが、美術系のコースも併設されていて、ほとんど全員が美大を目指すようなガチ度の高い美術部がありました。そこに入部して、美術コースの生徒に混じって制作をしていました。

当時、高校美術の世界で「デザイン」といえばアクリルガッシュを使った平面構成的なイラストレーションのようなものを主に指していたのですが、そこで評価されているものが自分には全く刺さりませんでした。イメージとしては二科展デザイン部みたいな感じです。

それに対する別の潮流として、課題解決を主眼とする「デザイン思考」的な教育が取り入れられたりもしていたのですが、それにも身が入りませんでした。「社会問題に対する高校生らしい回答」という評価軸に向けてレトリックを最適化する作業のように感じてしまい、自分はうまく楽しさを見出すことができませんでした。

とはいえ文句を言っているだけでは意味がないと思い、自分で本当に体重を乗せて作ったものを第三の「デザイン」として提出したいと考えるようになりました。そこで、中学時代から興味があったタイポグラフィに本格的に向き合うことにしました。

───制作していて転機になった作品はありますか?

2019年の「フォントの実験室」です。After Effectsで作った5分ぐらいの映像作品と、30ページぐらいの小冊子がセットになった作品です。美術部の部室にMacBookを持ち込んで制作しました。

県の高校美術展に出したのですが、物珍しさゆえか選ばれて全国展まで行きました。Twitterにもアップしたところ、700いいねぐらいつきました。

数字としては大したことないかもしれませんが、それをきっかけとしてプロのデザイナーに声をかけられたり、仕事が来たりもしました。当時の自分にとっては大きなフィードバックが得られ、はっきりと手応えを感じました。

デザインを本気で続けたら結構いい仕事ができるのかもしれないと感じられた、という意味で転機だったと思います。逆に、それまでは自分の能力をかなり低く見積もっていた気がします。

では次に、普段の制作についてもお聞きします。

───制作中に壁にぶつかった時、なにをしますか?

壁の種類にもよりますが、基本的には一旦寝ます。

───制作している時のマイルールはありますか?

学生時代はよく、ベッドの上で体育座りのような体勢で、ひざの上にMacBookを置いて制作していました。そのせいで非常に姿勢が悪くなってしまったので、今は必ずデスクにまっすぐ座るようにしています。

───影響を受けた作家はいますか?

自分は良くも悪くもグラフィックデザインに対してオタク的な部分があって、影響を受けたデザイナーは無数にいます。なので答えるのが逆に難しいです。それでも名前を挙げるとしたら、視覚的な面では、ヘルムート・シュミットと板東孝明です。三次元的なイメージを直接使わず、文字の精密なコンポジションによって画面全体に空間的な奥行きを発生させるようなやり方に興味があります。

───定義するならどんなクリエイターでありたいですか?

ひとことで定義するのは難しいですが、私はどちらかというと職人的な体質でもあるので、造形や情報設計、コミュニケーションのベーシックな技術を高めていくことをまず目指したいと思っています。

その結果として、単にコンサバや安定に向かうのではなく、場面に応じて変なアイデアを取り入れてもスベらない体幹を身につけられたらいいと思います。

───クライアントワークと自主制作での違いはありますか?

タイポグラフィという軸はある程度一貫していて、それを機能的に実践するのがクライアントワーク、その中で生まれた問題意識により純粋に接近しようとするのが自主制作、という感じです。

───まだカタチになってない、頭の中にある企画はありますか?

4つあります。同時に手をつけているので、どれも進捗は中途半端ですが。

そのうち1つは、友達が一緒にやってくれているおかげでうまく進行しています。私が注目している同世代のあるアーティストに声をかけて、作品集と展示を作ろうとしています。

普段の生活についてもお聞きします

───休日は何をして過ごしていますか?

現在は個人事業主なので、休日と稼働日という区分はありません。毎日働いている感じもするし、毎日休んでいる感じもします。

仕事以外の時間には、GeoGuessrのランクマッチをするか、漫然とインターネットを見漁るかのどちらかが多いです。

───最近ハマってるものはありますか?

料理。自分は何を作るにしても必要以上に凝りすぎる傾向があるのですが、自分のための料理は大雑把に作ってまあまあ美味いだけで満足できるのでいいです。

───最近観た作品の中で、刺さったものはありますか?

TDCをきっかけに見返した井上嗣也の作品集。アプローチも方向性も自分とは全然違いますし、真似はできませんが、説明抜きで完全に自立するビジュアルの強靭さに対しては素朴な憧れをもっています。

───デザイン以外で好きなものや作品はありますか?

これも高校時代からですが、詩歌に興味があります。グラフィックに比べると全く詳しいとはいえないし、自分で書くこともできませんが。

最近、「Edge」という、現代詩の詩人に密着するドキュメンタリーシリーズをYouTubeで見ました。榎本櫻湖の回と中尾太一の回が特によかったです。印象的だったフレーズは、「死ぬまでの時間をショートカットしたいから書いている」(榎本)、「国民的詩人になりたい」(中尾)です。

最後に、

───デザイナーとしてこれからやりたい仕事はありますか?

今はとにかくなんでもやりたいです。とはいえ特に関心があるのは、展覧会広報物、音楽イベントのフライヤー、文芸・学術書の装丁など。写真集にも興味があります。

印刷物を中心に考えてはいますが、ウェブやモーションもできるので、各案件に応じて幅広くスキルを動員していきたいです。

インタビュー対象者

畔上陽一

畔上陽一

グラフィックデザイナー/エディトリアルデザイナー

2003年生まれ、埼玉県出身。2025年武蔵野美術大学基礎デザイン学科卒業。芸術文化領域を中心に広範な受注制作を行うほか、タイポグラフィや文字デザインを主題とした作品発表に取り組む。東京TDC賞2026 TDC賞受賞。 info@yoichiazegami.com

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記事執筆者

Akiko Oshima

Akiko Oshima

Interviewer / Designer

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