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ブルーシートに海を見る

ブルーシートがふとした瞬間に海のように見える。そんな発見から始まった『Seascape』は、人工物と自然の境界を静かに揺さぶります。身近な素材の中に潜む風景を掬い上げる、木村雪絵さんの視点とその起点を探ります。

───この作品の制作を始めたきっかけについて教えてください。

大学2年生(2024年)の頃、授業で『海学』という海についての本を制作しました。生まれてからずっと「海神」という土地に住みながら海と距離感がある自分にギャップを抱き、「海」という漢字が着く地名や漂着物や水たまりの形を収集して一つの本にまとめたものです。

それから半年ほど経ったある日、家の近所を散歩している時に、草むらの上に放置されていたブルーシートが水や池のように見えたことがありました。人工的で鮮やかすぎる青色と、自由自在に形を変える性質。そして自然とかけ離れているのに、なぜか海や水といった根源的な自然を連想してしまう。その現象が面白くて、生活の中でブルーシートを見かけるたびに、海との繋がりに惹かれていくようになりました。

木村さんが海みたいだと語るブルーシート

───『Seascape』のシリーズが生まれたのはいつ頃ですか。

「Seascape」は2025年4月頃から制作し始めたシリーズです。同時期に同級生と行ったグループ展のテーマが「性質が違うもの同士を組み合わせて作品を作る」だったため、街中のブルーシートと海の写真を配置した写真集を作ったのが最初です。

この写真集では、環境の中に置かれたブルーシートが海や池のように見える時があること、逆に海がブルーシートのようなテクスチャーに見える時があることに着目していました。

最近はそこから発展させて、ブルーシートを自分の手で操作して波に見える瞬間を撮ったポスターを作ったり、大学のキャンパス内の広大な地面に敷く実験をしています。現在はブルーシートをただ敷いたり撮ったりしているだけなので、もっと多様に発展させていきたいと思っています。

ちなみに、ブルーシートは元々オレンジ色の「万能シート」という名前で販売されていましたが、当時ホースやバケツに使われていた青い顔料の方が安価で安全なことや、海や空に近い色の方が景観を損ねないことを理由に、青い「ブルーシート」が作られるようになったそうです。

───制作の中で、どのようにアイデアを広げていきましたか。

その時やりたいことを第一に行っています。振り返ってみると、ブルーシートを素材として使った作品だけでなく、写真集やポスター、実際に敷いてみるなど、さまざまな表現方法を試してきました。

───作品を制作するうえで、どんな感情が原動力になっていますか。

最近は「風景を作りたい」という思いで制作しています。初めて製鉄所を見に行った時のような、鳥取砂丘や九十九里浜で高いところから一面に広がる海を見た時のような、海岸で星空を見た時のような、雪が降って見慣れた街並みが一変した時のような。そんな風景を作りたいです。

───逆に、鑑賞者にはどのような体験をしてほしいと考えていますか。

ブルーシートは工事現場やレジャー、防水、養生、目隠しなど様々な場面で使われていて、ネガティブなイメージを持たれることも多い日用品です。そんな日常の中にありふれているブルーシートから、雄大な海を思い出す瞬間があれば嬉しいです。

───今回の制作を通して、新しく得た気づきはありましたか。

巨大なブルーシートを武蔵美のキャンパス内に敷いた時、自分の制作に初めて他人を巻き込みました。複数人で作業したことで素早く綺麗に敷くことができ、その景色は圧巻でした。1人では出来ない規模のことには、それだけ得るものがあるのだと気付かされました。

それでは次に、木村さんご自身についてお伺いさせてください。

───ご自身に共通するテーマはなんでしょう。

海です。

───大学ではどのようなことを学んでいらっしゃいますか?

グラフィックデザインやブックデザインを中心に、幅広く学んでいます。

───一つの作品にはどれくらいの制作期間がかかりますか。

1つの物につき、1ヶ月から数ヶ月ほどかかります。

───作品に無意識に表れてしまうモチーフはありますか。

大学1年生の頃から水をモチーフに制作することが多いです。青いものに惹かれているのかもしれません。そもそも青色が好きすぎて、持ち物や服が青一色になっているほどなので、自然と影響していると思います。

───自分の専門以外のアートや作品で影響を受けた、あるいは好きな作家はいますか。

梅田哲也さんや内藤礼さんのような作品が好きです。場に反応して要素を丁寧に掬い取り、新しい体験を与えてくれる所に惹かれます。お二人の作品を見ると、頭をぶん殴られたような感覚になります。

───趣味や好きなこと、また休日の過ごし方について教えてください。

単調な作業を繰り返すのが好きなので、手製本や編み物をよくしています。手製本をするためにブックデザインをしている節があります。

木村さんが製本した本の数々。

展示を見に行くのも好きで、休日もよく足を運びます。作品を見ている時間は、ただ目の前のものに集中していればいいので、気分転換にもなっています。もともと興味がなかった展示にも行くようにしていて、偶然の出会いがあると楽しいです。

また、人間よりも大きな機構や重機の存在に惹かれます。人間に合わせたスケールではなく、機械で操作することを前提とした構造にロマンを感じていて、製鉄所や生コン工場を見るたびにうっとりしてしまいます。この前は観光船に乗って、巨大なサイロや工場を海側から眺めたのがとても楽しかったです。

おそらく根本的には同じ理由なのですが、労働災害の事例を見るのも好きです。厚生労働省のサイトが見やすくて面白いです。

───ハマると抜け出せないタイプですか?最近抜けられてないものはありますか?

一つの曲にハマるとずっと同じ曲を聴き続けてしまいます。最近はMassive New Klewの「Kill ‘Em All」をずっと聴いています。

───最後に、どんなクリエイターでありたいですか。

自分が楽しいと思うことをやり続ける人間でありたいです。今はブックデザインやブルーシートと海に興味がありますが、10年後には全く違う分野のものに興味が湧いているかもしれないし、創作に興味が向いていないかもしれない。でもそれを悪いことだと捉えず、マイペースに楽しみ続ける人生を送りたいです。

インタビュー対象者

木村雪絵

木村雪絵

Designer

2004年生まれ。千葉県出身。千葉県立松戸高校芸術科卒業後、武蔵野美術大学基礎デザイン学科在学中。ブックデザイン、立体、グラフィックなど幅広く制作を行っている。

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記事執筆者

Mimi Shiota

Mimi Shiota

Designer

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