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東京のビルの見えない景色へ誘う『東京屋上想層図』

東京にある変なビルの屋上の間取りを空想して描いたMimi Shiotaさんの作品『東京屋上想層図』。見えないものを空想する視点から生まれた本作は、子どもの頃の興味や上京時に目にした東京の景色がきっかけとなり制作されました。秘密基地を夢想した子どもの頃の想像力を呼び覚ます本作の原点と、形になるまでの挑戦に迫ります。

───「東京屋上想層図」について教えてください

この作品は、東京の高層ビルや雑居ビルの変な屋上を撮影して中に何があるか妄想で間取りを描いた本、ポスター、立体作品の作品群です。

東京のさまざまな街を歩きながら、屋上を街ごとに約500枚ずつ撮影し、写真を抜粋して写真集をつくり、さらにその中から選んだ屋上をもとに間取りのイラストを描き、立体作品へと展開しています。

───この作品の制作のきっかけについて教えてください。

この作品のきっかけは、上京した日の出来事でした。高速道路を走る車の窓から、ふと変な屋上が目に入ったんです。煌びやかなビルの大きな看板、その裏側にぽつんと廃れた小屋が建っていて、「あれ?」と思って周りをよく見てみると、そういう風景がいくつもあることに気づきました。

派手な看板の背後に張り付くように建つ小屋、誰も住んでいないはずなのに人の気配だけが残っている物干し竿、参拝者の姿がまったく想像できないほどひっそりとした屋上の神社。東京の煌びやかな顔の裏に、そんな風景がいくつも潜んでいる。その意外性と、誰かがそこで生きていたような温もりが面白くて、この作品を作り始めました。

───変な屋上の発見から、どのようにこのアイデアを形にしていきましたか?

とにかく「どう描けばいいんだろう?」と考えながら、ひたすら描きまくりました。それと同時に、断面図を描いている作家のみなさんがどんなスタイルで、どれくらいの密度で描いているのかもリサーチしました。

特に参考になったのが、『アイデア』vol.405の「世界を覗くグラフィック―断面図・間取り図・分解図―見えないものを描く視点」という特集です。見えないものをどう可視化するか、という視点がとても刺激的で、自分の制作にも大きく影響しましたし、さまざまな作家さんを知るきっかけにもなりました。

また、岩井俊雄さんの『100階建てのいえ』についての講義を受けたとき、本のめくり方や読み方、絵の構成のあり方といった、アフォーダンスの観点からの気づきをたくさん得ることができました。

───制作をしていて、これはおもしろいと思った瞬間はありますか?

この作品を作るにあたって、大学の先生にかなり相談したのですが、その中で面白いなと思ったのが、「東京の屋上は押入れと似ているかもしれないね」という話です。

人は、友人が部屋に来るとき、水道の支払い書や脱ぎっぱなしの服など、生活には必要だけど人には見せたくないものを押入れに押し込みます。

東京の屋上も同じで、貯水槽や電気系統の配電盤、おそらく以前その土地にあった神社など、ビルのためには必要だけど、繕いたい外観にも、印象付けたい屋内にも置けないものを置く場所として、屋上は最適なのです。

必要なのに人に見せられない、そんなものを押し込む場所という意味で、押入れと東京の屋上はすごく似ているのです。

そう思うと、押入れの中身に人の本当の性格が見えるように、屋上から生活感が感じられるのも、なんだか納得がいくような気がしてきます。

制作を振り返って

───今回の制作を通して、前の自分にはなかったと思える発見などはありますか?

この作品を作るためには、とにかく高いところに登って屋上を撮らないといけなくて、基本的には一般開放されているカフェテリアのような場所に望遠レンズを持って行き、そこから撮影していました。

でも一度だけ、どうしても撮りたい屋上があったんです。どこからも見えなくて、もうこれは直接お願いするしかないと思い、雑居ビルで働いている方に「こういう制作をしていて、屋上を撮らせてもらえませんか」と交渉しました。制作のために自分から誰かにお願いするのは、そのときが初めてでした。

結果的に快くOKしていただけて本当にありがたかったですし、自分の制作のために勇気を出して人を巻き込んだのは、前までの自分にはなかった挑戦だったなと思います。

───今回の制作を振り返って、次に活かしたいことはありますか

今思うと、展示にしてはちょっと紙媒体に寄りすぎていたな、とは感じています。この企画は立体にした方がもっと活きたかもしれないし、展示自体にアドベントカレンダーのような仕掛けを入れるなど、体験性を持たせる方法もあったかもしれない。今後ブラッシュアップしていけたらいいですし、もしまた展示する機会があれば、展示形態そのものをもっとこだわろうと思っています。

───鑑賞者にどう感じてほしいと思って制作しましたか?

子どもの頃、みんなが描いていた秘密基地の地図を思い出すような感覚になって欲しいです。

最近は気づいたらスマホでSNSをずっと見てしまい、便利だし楽しいんですが、その一方で、子どもの頃みたいに、見えないものを勝手に想像して楽しむ時間って減ったように思います。イマジナリーフレンドとか、秘密基地とか、「きっとこの中に何かあるはず」って本気で信じてワクワクしていたあの感覚です。

この作品が、そういう感覚に少しでも立ち返れるきっかけになっていたら嬉しいですし、自分自身も、あの頃の想像力を思い出せるようなものになっていたらいいなと思って制作しています。

───制作する中で、壁にぶつかった時はどんなことをしていましたか?

この制作に関しては、とにかく散歩が効きました。ひたすら街を歩いたり、中央線に乗って窓の外をぼーっと眺めたり、団地も好きなので団地をみたり、気になる屋上を見つけては写真を撮ったり。そうやって東京の景色に触れていると、一気にやる気が出ました。

一方、展示直前は本当にギリギリで、いろんな人に死ぬほど手伝ってもらいました。正直、終わらないんじゃないか、と、心が折れそうになった瞬間もありました。でも、手伝ってくれている人たちの名前をクレジットで見たときに、「こんなに人を巻き込んでおいて、完成しなかったらさすがに…」って思ってそれでなんとか踏ん張っていました。

Shiotaさんの創作の原点について

───Shiotaさんの原点となった体験について教えてください。

幼稚園か小学校低学年の頃、車や家の断面図をひたすら描いていた時期がありました。星型の車やハート型の家など、現実には存在しないものばかりでしたが、本気でそれを作りたいと思って描いていました。そんなある日、姉と二人で将来住む家の設計図を描いたんです。それを母が祖母に見せたいと送ってくれて、その設計図を見た祖母が色紙などを使ってデコレーションして綺麗で可愛い間取り図にしてくれて。それがすごく嬉しくて、また新しく地下の設計図を描き足しました。そういう小さな思い出が今思えば原点かもしれません。

───制作に興味を持ったきっかけは?

中学校のとき、授業用に使っていい調べ物のパソコンがあって、皆PCで調べ物をしながら授業を受けていました。そのPCは結構規制が厳しくてYouTubeとかは見られなかったんですが、マガジンハウスの「100%LiFE」っていう建築雑誌はなぜか見られたんです。授業が退屈だった私は、暇つぶしにその雑誌を読み始めたんですが、これがかなり面白くて、どんどんとハマっていきました。更新も頻繁ではなかったので同じ記事を授業を聞かずに何回も読み返してました。絵を描く以外のクリエイティブに興味を持ち始めたのはこれがきっかけだったように思います。

ムサビに入ってから、当時読んでいた記事に出ていた建築家の授業を受けて、人生って伏線回収の連続だな、と思いました。

───制作を仕事にしていこうと思った転機はありますか?

転機は、大きく二つあります。

一つ目は、コロナ禍の引きこもり生活です。高校時代はアメリカに住んでいたのですが、ロックダウンで約半年間、家から一歩も外に出られませんでした。コロナだけでなく、大統領選による社会の対立やブラック・ライブズ・マター運動で近くのモールが破壊されるなど、外に出ること自体が怖くなってしまったんです。

その期間は、ひたすら家の中で漫画と絵を描いていました。漫画賞に応募したり、動画編集を始めたりと、クリエイティブへの向上心はあったものの、「将来どうしよう」という迷いも同時に抱えていました。

ちょうどその頃、父の会社の社長の息子さんがムサビ(武蔵野美術大学)の学生で、話を伺う機会がありました。そこで基礎デザイン学科を勧めてもらったんです。

高校生でムサビ生に直接会えるってなかなかないことだと思うので、今思うとかなりラッキーでした。「美大に入るなら制作活動を仕事にできるようになろう」とその時点で決めました。

二つ目は、受験期に出会ったある作品です。

高校を卒業したのが7月でそのあとは日本に戻って受験対策をしていました。その時、よく予備校の先生に「とにかくたくさんのクリエイターの作品を見なさい」と言われて、いろいろな展示に足を運んでいたんです。

その中で、おそらくADC展だったと思うんですが、野間真吾さんの「ISSEI MIYAKE SEMBA」のディレクションを見ました。

大阪が“天下の台所”と呼ばれていたことや、船場が水運で栄えた土地だったことから、店全体を水道管をモチーフにしている、というコンセプトで、土地の歴史や言葉から発想して、それをちゃんとビジュアルに落とし込んでいる。その流れがすごく面白いと思ったので、そのとき初めて、「企画から関わるクリエイターになりたい」と思いました。

そこからは半年間死ぬ気でデッサンを描き続けて、ムサビに受かりました。

あの作品に出会ったことで、自分の中にぼんやりあった「企画からやりたい」という気持ちが、初めてちゃんと言葉にできるようになったと思います。

Shiotaさんの普段の制作について

───あなたの作風を一言で表すと何になりますか?

子供の頃のワクワクを掘り起こすものであって欲しいと思って作っているので、作風もそうであってほしいです(笑)

───最近観た作品の中で、刺さったものはありますか?

妹尾河童さんの『河童が覗いたヨーロッパ』を見たときは衝撃を受けました。日記と共に描かれた宿泊先のイラストがとても詳細で、次のページを捲る手が止まらなかったのを覚えています。そのあと、シリーズの本を全部集めました。背景部さんの作品や、吉田誠治さんのものがたりの家シリーズも、いつ見ても心が躍ります。

実際の建築物でいうと、アラブ世界研究所を授業で知ったときは、頭に電気の火花が散ったような感覚になりました。意匠・光量・温度の3つも一つの機能に持たせられる凄まじさに感動しました。

───影響を受けた作家や監督はいますか?

妹尾河童さんと、ディック・ブルーナさんは、作品を見て学んだりしていました。

大学に入ってからは、建築家の後藤武先生の授業を受けて建築が大好きになり、ものの見方や考え方がかなり変わったと思います。また、岩井俊雄さんと大学の講義でお会いし、制作についてじかにアドバイスをいただいたことも、自分の中でかなり大きかったです。

───作品に無意識に出る癖やモチーフはありますか?

書き込み癖です。

密度を無意識に作っちゃう癖というか、思考の癖があって逆にシンプルなものを作るのが苦手です。どこかで挑戦することも必要だと思っているので頑張っていきたいと思っています。

───定義するならどんなクリエイターでありたいですか?

共感力の高いクリエイターでありたいと思っています。

昔から、ぼんやりと人や街を観察するのが癖になっていて、音楽を聴きながら街中のいろんなものを眺めて、勝手に想像しながら見ている時間が好きなんです。そのおかげかどうかはわからないですけど、ある程度共感できるラインを維持しつつ作品を作れている気はしていて。でも、それをもっとちゃんと武器にしたいというか、その感覚を最強に磨きたいと思っています。

───まだカタチになってない企画はありますか?

私は少しベトナムにルーツがあって、幼少期からベトナムにたびたび行っていました。その時からベトナムの屋上や街並みがすごい面白いと思っていて、ベトナムの屋上/住宅に何があるか見てみるコンテンツを作りたいと思っています。

日常生活について

───休日はどんな過ごし方をしていますか?

ネットフリックスを見たり、展示を見に行ったり、お散歩したりしています。

今年は見たことない映画をたくさん今年は見たいと思っています。

───ハマっているものはありますか?

2021年から、5年間毎月Spotifyでプレイリストを作っています。

音楽を聴くとその頃の記憶が思い出されるな、と気づいてから日記の代わりに始めました。ふと高校時代やしんどかった時代の音楽を聴くとその頃の頑張った記憶も思い出されて、また頑張ろう、という気持ちになれます。あとは漫画を読むのも好きで、ここ5年ほどの『ジャンプ+』の読み切りをほぼすべてチェックしています。
最近、面白かった読み切りをリストにまとめてみたのですが、何十本もある中で、特に印象に残った作品の多くが、実は数人の漫画家さんによるものでした。連載デビューが待ち遠しいです。

───デザイン以外の作品で好きなもの

最近はお笑いにハマり始めました。ラジオは聞いたことがあったんですが、最近初めて現場でお笑いを見て、そのパワーというか場を調整する力がすごくて。これ以上やったら滑るな、とか、滑りそうだからこの間でいっとくか、みたいな無音のコミュニケーションに圧倒されました。ネタも面白くてどんどんハマりそうなので、今度単独ライブに行こうと思っています。

あとは写真もすごく好きです。

nerholというデザイナーと彫刻家のアーティストデュオの作品がとても好きで見ることが多いですし、KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭にも毎年行っています。毎年写真もそうですが、展示方法が面白くてとても勉強になります。

最後に

───引退後にどんな活動をしていたいですか?

誰にも見せない自分のためのスケッチを死ぬまでちまちま描きたいです。

インタビュー対象者

Mimi Shiota

Mimi Shiota

Designer

佐賀県唐津市出身 武蔵野美術大学造形学部基礎デザイン学科卒業。建築と人の生活に興味があり制作を行う。

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記事執筆者

Akiko Oshima

Akiko Oshima

Interviewer / Designer

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