CUES
古典から「個性」を生む
自身の家の庭の植物をパターン化し、移りゆく季節と家族の記憶を表現した卒業制作「西野家の庭」。古典作品を原点に、簡単に消費されない表現を探り続けたnishino azumiさんの思考をたどります。

───この作品について教えてください
この作品は、自分の家の庭にある植物をもとに生成した模様(パターン)の中に、家族写真を重ねた作品です。
庭の植物は、日々の手入れや季節の移ろいの中で、同じようでいて決して同じではない変化を繰り返しています。その姿は、人間の生活や記憶の積み重なりと重なり合うものだと感じました。
この作品は、自分の家の庭にある植物をもとに生成した模様(パターン)の中に、家族写真を重ねた作品です。
庭の植物は、日々の手入れや季節の移ろいの中で、同じようでいて決して同じではない変化を繰り返しています。その姿は、人間の生活や記憶の積み重なりと重なり合うものだと感じました。
反復の中に潜む揺らぎによって両者の営みが響き合い、境界が溶けていく瞬間を感じ取ることができるのではないか。そう考えて、西野家の庭の物語をもとに制作しました。

展示は空間と本の二つの方法で設計しました。空間は6枚の大型パネルにより、鑑賞者が模様の中に包み込まれるように構成されています。家族写真を同化させる表現と、家族のシルエットで切り抜く表現で、両者の間に生まれる境界の揺らぎを探っています。また、白黒にすることで、記憶の中で形成される関係を可視化しました。一方、本では模様に色彩を用いて表現し、庭の物語や日々の写真を収めることで、季節ごとの変化や思い出を追体験できるようにしました。記憶・視覚・物質性の差異が際立つように設計しました。

───ウィリアム・モリスのパターンを彷彿とさせる作品ですが、今回の卒業制作が誕生したきっかけについて教えてください。
もともと古典的なものや歴史、美術史に強く惹かれていました。
普段から流行や瞬間的な新しさを追うことよりも、長い時間を生き残ってきた表現や思想に触れることで、「なぜこれが残ってきたのか」を考えることが多かったです。古典的な作品や表現をモチーフに選び、自分の感覚や生活とを重ね合わせることで、現代に引き寄せた表現をしたいと思っています。
───古典的なものをモチーフにえらぶのはなぜですか?
「自分をそのまま表現したい」というよりも、長い時間をかけて蓄積されてきた表現に身を置くことで、自分自身の感覚や思考を立ち上げたいと思っています。即時性のある情報が溢れる中で、時間をかけて読み取られてきたもの、見続けられてきたものに触れ続けること自体が、今の時代における一つの分かりにくさや手間を否定しないかたちなのではないかと思っています。

───今回の卒業制作で、新たに発見したことはありますか?
「自分の内側を表現すること」への向き合い方が変わりました。
これまで、自分の感情や内面を作品に出すことに強い抵抗があり、デザインをする以上は社会性を優先し、自分の表現は抑えるべきだと考えていました。ただ今回の制作を通して、作品は、自分自身の時間や経験と深く結びついたものであり、作品で自分を表現することにも確かな意義があるのだと初めて実感できました。
これは今までの制作との最も大きな違いだと感じました。
卒業制作のこだわりについて
───鑑賞者にどんな感情を抱いて欲しいですか?
一瞬で見終わる作品にはしたくなかったです。
興味のない人がすぐに離れてしまうのは構わないのですが、立ち止まってくれた人が、ぐっと作品に引き寄せられ、細部まで見てしまうような作品であってほしいと思って制作しました。
多くの人に広くウケることよりも、たとえ一人でも、時間をかけて向き合ってくれる鑑賞者がいることを願っています。

───制作する上で譲れないものはありますか?
作品が「軽く消費されるもの」にならないことです。
ビジュアルの強さだけで完結せず、見る側が能動的に関わる余地を残すことを意識しています。
───そのために工夫していることはありますか?
ビジュアルと文章の両方で伝えられる作品にすることです。
現代のSNSでは視覚的な強さが重要だと思いますが、そこで完結してしまう作品にはしたくないです。文章によって、コンセプトやプロセス、背景まで含めて伝えられる構造をつくることで、より深く作品に触れてもらえると考えています。
───文章にすることは今までもありましたか?
考えること自体は昔から好きでしたが、それを文字として外に出したことはほとんどなかったです。
イラストだけでなく言葉としてストーリーや思考を記したことで、自分の中にあった感情や考えが、初めて可視化されたように感じました。文章を作品の一部に起こしたことは、私の中で大きな挑戦でした。
技法や形よりも先に、自分が引っかかっている感覚や問い「何を表現しようとしているのか」「何を伝えたいのか」を言葉にすることで、制作中に迷ったときの軸になったように感じます。

nishinoさんの原点
───最初の創作の衝動について教えてください
小学校の図画工作の授業が、毎週いちばんの楽しみでした。「どう作るか」を自分で考えられる時間が心地よく、完成させることよりも、手を動かしている過程そのものに夢中になっていた記憶があります。
今振り返ると、結果よりも「つくっている時間」を大切にする感覚は、この頃から変わっていないように思います。
───原点となった体験はありますか?
小学生の頃に通っていた絵画教室で、西洋絵画の画集を目にしたことが原点だと思います。
そのとき初めて、「知らないものに出会い、興味を持つこと自体がこんなに楽しいんだ」と感じました。そこから、いつかルーヴル美術館に行きたいという憧れを持つようになりました。今も、現代の流行に無理に合わせるより、学びながら表現する姿勢を大切にしていますが、その考え方の始まりはこの体験にあったのだと思います。

───今でも興味を持ったりすることを大切にしていますか?
はい。美術館や博物館によく足を運んでいます。作品そのものだけでなく、額装や額縁、背景に使われている布、展示のための細部などを見ることが多いです。また、図書館で画集や作品集を幅広く眺める時間も大切にしています。一方で、Twitterなどの現代的なSNSを使いこなすことは自分の不得意な分野だなと思います。
普段の制作について
───デザインするときに意識していることはありますか?
書体やモチーフ、制作手法はクラシックなものを選ぶことが多いですが、そこで終わらせずに圧倒的な物量を意識しています。
伝統的な表現をそのまま使うと過去の引用で終わってしまいますが、量や密度を極端にすることでこれまでにない見え方が生まれるのではないかと考えています。

───完成へ持っていくために工夫していることはありますか?
最初から完成を目指すのではなく、試作や反復を重ねながら少しずつ形を見つけていっています。模様を生成する過程で、意図しなかったズレや歪みが生まれることがあり、そうした偶然を排除せずに取り込むことで表現が広がっていきました。考えることと手を動かすことを往復することを意識しています。
───卒業制作でも、実際に試行錯誤を重ねていましたか?
そうですね、制作期間の大半をスタディに費やしていました。体感としては全体の8割が調査や検証、思考の時間で、実際に手を動かして制作していたのは2割ほどだったと思います。じっくり考え抜いた上で形にするスタイルが、自分には合っていると感じています。

nishinoさんの日常についてもお伺いします。
───最近、興味をそそられたものはありますか?
美術館に行くと、良くも悪くも、ほとんどのものを「おもしろい」と感じてしまいます。
自分なりの評価や解釈をする前に、まず興味が湧いてしまうタイプなのだと思います。好きではないものの傾向は比較的少なく、「刺さるもの」は広い。デザインだけでなく、建築、生物、数学、自然など、分野を問わず関心が広がっていっています。
───ふとした時に、創作意欲が掻き立たれた瞬間はありますか?
街を歩いているときに、意図せず造形が重なっている風景に出会うことがあります。私は模様をつくることが多いので、建物の影、舗装のひび、看板や植物など、本来は別々の目的で存在しているものが偶然ひとつのリズムや構造を持って見える瞬間に、「この状態をそのまま表現したい」と感じます。計画された美しさではなく、無意識の積層に強く惹かれているのだと思います。

───個人的なことは作品づくりに影響しますか?
大きく影響していると思います。日常のゆったりとした時間や穏やかな日々の感覚が、そのまま作品の形になることが多いです。
───具体的にどんなものが影響していますか?
ほのぼのとした映画やドラマを見ることが好きです。自分の表現に直接つながっているかは分からないですが、そのときに感じる穏やかな気持ちは大切にしたいと思っています。

───制作から離れた休日はなにをしていますか?
人と話すことが多いです。高校時代の友人はものづくりとは全く違う分野を学んでいるので、そうした人たちと話す時間は、自分にとって大切なリフレッシュになっています。
祖母と話したり、妹と買い物に行ったり、服を一緒に選んだりと、何気ない日常の会話を楽しむことが多いです。人見知りではあるものの、話すこと自体は好きだと感じています。
ご自身について
───作品を作る時、どんな感情が一番強いですか?
「楽しい」「夢中になる」という感情がいちばん強いと思います。何を表現するか以上に、この制作の時間を自分が大切にできているかどうかを重視しています。自分が没頭できる時間の中から生まれたものこそ、他の人にも届くと信じているので、夢中になるという感情がいちばん強いです。

───制作をしていて面白いと思った瞬間はありますか?
過去の作品や試みが、自分の中で一本の線として繋がり、次の作品へと昇華されたと感じたときです。
───制作している時の癖はありますか?
意味を考えてしまうことです。色や形に対して、「なぜこの形なのか」「どういう意味を持つのか」を考えてしまう癖があります。
───壁にぶつかった時はどうしていますか?
作品から距離を置くようにしています。一度まったく違うものを見たり、ドラマを観たりして、思考の流れを断ち切るようにしています。直接解決しようとするよりも、離れることで見えてくることの方が多いですね。

未来について
───どんなクリエイターでありたいですか?
じっと隅まで見たくなるクリエイターでありたいです。
ぱっと見て終わるのではなく、気づけば細部を追ってしまい、いつの間にか時間を使っているような、そんな作品をつくり続けたいと思っています。
───引退後にはどんな活動をしたいですか?
子どもに美術やアート、表現を教えたいです。小さなアート教室を開き、できれば子どもに限らず、幅広い年齢の人が参加できる場にしたいと考えてます。

インタビュー対象者