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ひとかけらのガラスから景色を覗く

自然の景色や未知の世界に惹かれ、流動的な“感覚”を追い続けてきた長田さん。捨てられたガラス片の内側に、自身の原風景を重ねて立ち上げた作品「透の景」の背景に迫ります。

───まずこの作品についてお伺いしたいです。

「透の景(とおのけい)」 は、ガラスの破片をマクロレンズで撮影し、その微細な凹凸に入り込む光や色の屈折を、移り変わる“景色”として捉えたシリーズです。元は工房で破棄されるはずだった小さなガラス片をあえて素材として扱い、肉眼では捉えられないスケールの世界を可視化することで、「生まれる/消える」「定まらずに変化し続ける」現象そのものを写し取ろうと試みています。

───今回の作品「透の景」は、どのように着想されたのでしょう?

この作品の出発点には、もともと私が惹かれてきた“ガラス”という素材があります。北欧のタピオ・ヴィルカラやイッタラといったガラスアーティストの思想に影響を受け、ガラスそのものの魅力には以前から強い関心を抱いてきました。

また、静岡県湖西市で育ったこともあり、日常的に自然の景色を眺めることが好きでした。宇宙や深海のような、得体の知れない世界の知識を集めるのも好きで、そうした“好き”をどう作品に落とし込むかをずっと模索していたんです。

この作品を作るに至った決定的なきっかけは、大学3年のときにつくったグラスと色水の屈折を合わせたポスター作品でした。当時はまだ消化しきれなかった感覚があって、「もっと未知の世界が見えるのでは?」と思い、再挑戦することにしました。

制作をする中で、ふと「景色もガラスも、何かが失われては生まれることの繰り返し。常に変化し続けていて、改まって定義することは難しい」という共通点に気づいたんです。そこで、大学の工業デザイン学科のガラス工房で、制作途中で失敗して崩れたグラスの破片を譲っていただきました。

そのガラス片を覗いてみると、周囲の光や色を映しながら一瞬たりとも同じ姿を見せず、まるで宇宙や深海のように得体の知れない世界と同じような魅力を感じました。さらに、親指ほどの小さな破片をマクロレンズで覗いたとき、肉眼では決して捉えられない壮大な世界が突然姿を現して、本当に驚きました。

元々は無色透明で何者でもなく、捨てられる存在だったガラスのかけらに、何かが芽吹く気配や起源を感じる瞬間が訪れ、隙間や凹凸に色が流れ込む様子は、地表に水が流れ込んで川が生まれ、地に根が張っていくような、命の宿る瞬間に近しい、と直感的に感じたんです。

こうして、私が大切にしてきた私自身の感覚、“流動的で手につかめないもの”が、ひとつのガラスの中に抽象的な景色として浮かび上がってきたように感じ、この制作を始めました。

───アイデアをブラッシュアップする中で意識したことはありますか?

ガラスという素材そのものの解像度を上げることに注力しました。

これまで工業製品の完成されたガラス作品だけを見ていたのですが、ガラス研究室の工房を見せてもらったことで失敗した崩れたカケラなどをみたことにより固定観念が取れ、素材の奥行きを掴めたように思います。

───制作を始めたとき、「これはおもしろい」と感じた瞬間はありましたか?

とにかく作品がミクロの世界なところと、あとは作業と出力物のギャップです。

ちまちま、数ミリのガラス破片を回転させるだけなのに、世界が目まぐるしく変わっていくんです。二度と同じ形では捉えられないその瞬間を、ただ夢中になって撮り続けてしまって。

こんな感覚は、正直はじめてで、ワクワクがずっと止まりませんでした。

撮影自体は惑星が回転するように、光の向きやガラスの角度を少しずつ変えていく地道な作業で、いざ紙媒体で印刷してみると、同じガラス破片でも、まるで別の場所や季節をガラッと変えて捉えたかのような、広がりのある景色として立ち上がってくる。

その作業と出力物のあいだに生まれるギャップもまた、本作の大きな魅力でした。

───試作やテスト撮影はどのくらい行うのでしょう?

全体で半年くらいです。偶然、奇跡の景色が現れるまで辛抱強く撮影するので、半日やってもほとんど収穫がない日も。構図などの頭で考えることは一旦撮影時は排除して、感覚を頼りにひたすら撮るという工程を続けています。そしてその大量の写真の中から丁寧に選別しています。

ビビッときた1枚に出会うのに5日くらいかかることもありますし、これだっていう方向性が決まれば割と早く完成できることもあります。

───制作のうえで意識している“自分らしさ”はありますか?

とことん、“らしさが出る時間”を楽しむことです。作品を作りながら、旅先の写真を見返したり、作品に合う音楽を流したり、自分の空気感に浸るように制作すると、自分らしさ全開で制作ができるように感じます。

───長田さんの作品に共通するテーマはありますか?

“流動性”と“自然観”です。

───鑑賞者にはどんな感情で作品を見てほしいですか?

どこかの景色を眺めるのと同じような感情で、難しいことを考えずに感じてほしいです。私は本当に感動すると“無”になって言語化できない感覚が生まれます。

人間の感覚的な部分で否応無く感動しちゃって共鳴する、そんな感覚を目指しています。何がこんなに刺さるのかは、言語化できない、みたいな。

ご本人について

───ものづくりに興味を持つようになった原点を教えてください。

母が料理や手芸など “ものを作ること” が好きで、家には関連する本がたくさんありました。物心つく前からものづくりが自然と身近にあって、気付いたら自分もその道に惹かれていました。

───大学ではどのようなことを学ばれていたのですか?

授業ではグラフィックを中心に学び、課外ではイベント企画や地域に関わる活動をしていました。基本的には学校での制作に力を入れていましたね。

───影響を受けた作家や表現はありますか?

北欧のアーティストに惹かれます。タピオ・ヴィルカラやイッタラなどのガラス作家、ミナペルホネンの皆川明さんの思想にも共感します。どれも “ものづくりが暮らしの延長にある” という点に惹かれるからです。

───最近見たもののなかで、「これは自分に刺さったな」と感じたものはありますか?

旅先での“施設の観察”ですね。京都では寿ビルディング、軽井沢では軽井沢コモングラウンズ、東京では蔵前などを巡りました。古いビルや小さな区画の中に、こだわりを持った店主がセレクトしたものが丁寧に陳列されてるので、一人一人の脳内がのぞけて楽しいです。

───自分の専門以外のアートや作品で影響を受けたり、好きなものはありますか

建築です。特に安藤忠雄さんの建築には勇気をもらっています。光や陰影の使いのプロだなあ、と思います。建築って一見すると流動性や有機的なものから離れているように見えますが、安藤さんはむしろ逆で、中に入ると森や水や光に包み込まれて“堕ちていく”ような感覚があって面白いです。

建築そのもののかっこよさはもちろんですが、“つくること”への情熱や姿勢が年齢を重ねてもパワフルで、そこにも強く惹かれています。

───趣味やすきなことはなんでしょうか。

外では雑貨屋や本屋、喫茶店、美術館を巡る“小さな旅”に出ることが好きです。

家の中ではドラマを観たり(昔観た作品を繰り返し観るくらい好きです)、折り紙やパズルのように、黙々と集中できる作業に幸福を感じます。

今は折り紙中毒です。季節のモチーフを作るのが楽しくて。クリスマスリースやオーナメントを制作中であっという間に時間が経つし、没頭できて心地いいですよ。


思えば、小学5年生のころに通っていた洋裁教室でも、型紙切ったり、ミシンで縫ったりするときの集中力が凄まじいって言われてました。昔から、夢中になると我を忘れるタイプなんだと思います。でも、不器用なんですけどね。

旅や生活といった個人的な体験からしか作品を生み出せないタイプなので、日々の暮らしをどうワクワクさせるか、どう整えるかを大切なんだと思います。

───定義するなら、どんなクリエイターでありたいですか?

何にでも“面白がれる人”でいたいです。

興味の範囲が広いほど、その分だけ誰かと共創するときに、自分じゃ想像し得なかった面白い化学反応に素早く気づける可能性が大きい気がします。

───いま、まだ形になっていない企画で、頭の中にあるものは?

地元・弁天島にガラス張りのテラス”をつくりたいです。

駅から真っ暗な地下道に入って、抜けた先には海が広がる。浜名湖と太平洋がつながる境界も望めるし、干潮の時には湖に浮かぶ鳥居のふもとまで行ける。最高な景色なのに、それをゆっくり眺めるための場所がないんですよね。
テラスの中には飲食店や音楽ホールなど、地元特産のお店を作れたら。海の上で演奏できたら最高だろうなあ。浜松は音楽のYAMAHAもあるし、美味しいうなぎさんもいるし素敵な場所です。

───もしデザイナーになっていなかったらどんな活動をしていたいですか?

もしデザイナーじゃなくなったら、やりたいことは結構あります!

実際にものを作ることも好きだけど、それが環境や街にどう影響を与えるか、っていうことを考えるのも好きなんですよね。だから地域創生などに関われたらなと。

それか、何か選りすぐりの、こだわりあるお店でもひっそりできたらなあ。

───今回はお話を聞かせていただき、ありがとうございました。
長田さんの作品『透の景』は、2025年度 武蔵野美術大学 卒業・修了制作展にてご覧いただけます。


2025年度 武蔵野美術大学 卒業・修了制作展

開催期間:2026年1月15日(木)~1月18日(日)

開館時間:9時~17時00分(最終入場16:00)

会 場:鷹の台キャンパス 東京都小平市小川町1-736

アクセス:J西武国分寺線「鷹の台」駅下車 徒歩18分,西武バス「武蔵野美術大学正門」停留所下車すぐ,立川バス「武蔵野美術大学」停留所下車すぐ

入 場 料:無料


インタビュー対象者

長田百加

長田百加

Graphic Designer

静岡県湖西市出身。浜松工業高等学校デザイン科を卒業後、武蔵野美術大学基礎デザイン学科に在学中。

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記事執筆者

Mimi Shiota

Mimi Shiota

Interviewer / Designer

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