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日常が着想の宝庫になるとき – 加藤晃介、映像の軌跡
日常の何気ない瞬間を着想に変え、映像へと昇華させるコンポジター・加藤晃介さん。実写合成を中心に活動する彼の作品観や創作のルーツ、そして未来のビジョンに迫ります。
───はじめにこの作品群について軽くご紹介ください!
これらの作品には、それぞれの制作時期ごとに異なるテーマがあります。
日本のスタジオで約1年半の業界経験を積んだ後、海外のスタジオを目指す自分の成長と実力を証明するための挑戦として取り組んだ作品や、当時携わっていたプロジェクトで得た知識や技術を、まるで落書きのように自由に昇華した親密な作品、そして初心に立ち返り、初めての自主制作をリメイクして自分の現在地を確かめるための作品などがあります。
本作以前は「上手く作ること」よりも「心を込めて作ること」を意識していましたが、本作からは「上手く作った上で心を込めること」を大切にするようになりました。
特に苦手だったレイアウトについては、当時勤めていた会社の経験豊富なアーティストからフィードバックをもらいながらブラッシュアップしました。さらに、コンポジットもスーパーバイザーに見せて改善点を洗い出し、作品を完成へと磨き上げました。
実際に海外スタジオの面接では、リールに含まれていた本作について質問を受け、それが採用につながりました。ジュニアアーティストとして海外を目指す上で、自主制作を続けてきて本当によかったと感じています。


───たくさんの作品を作られている加藤さんですが、企画や着想はどんな場面から生まれることが多いですか?
面白い映画を観たときや、旅行先の風景、友人との会話、日常生活での何気ない瞬間など、さまざまな場面から着想や企画が自然に生まれてきます。
───こちらの作品集に入ってる作品の制作期間はどのくらいでしたか?
短い作品で約1ヶ月のものから、数ショットある作品だと長くて約半年です。
───大まかに、制作のワークフローについて教えてください。
実写合成が好きなので、制作はまず撮影からスタートすることが多いです。一眼レフカメラやドローンを使って映像を撮影し、作品によってはHDRIなどの環境データも併せて収集します。カメラトラッキングには主にNukeを使用していますが、最近ではBlenderでのトラッキングにも挑戦しています。CG制作にはHoudiniを使用し、主にエンバイロメントやFXを担当しています。
その後のコンポジットは、仕事でも中心的に使っているNukeで行い、画作りを丁寧に詰めていきます。クオリティを高めるうえで意識しているのは、CG自体の作り込みを全体の3割程度に留め、残りの7割をライティングとコンポジットで仕上げていくという制作バランスです。
CGが3割なのは、単純に自分の得意分野がライティングや2Dでの画作りにあると感じているためで、そこに最も力を発揮できると考えているからです。

───映像をブラッシュアップしていくときは、どんな工夫をしていますか?
移動中や仕事中のレンダリング待ちなど、ちょっとした空き時間を使って何度も見直し、「もっと良くできるポイントはないか」と常に探すようにしています。
さらに、身近な人に進捗を共有し、感想をもらうことで、自分一人では気づけなかった視点や改善点にも出会うことができています。
───では、制作を振り返って「もっとこうしていれば」と思う部分はありますか?
1作品で数ショット制作する時もあるので、データやファイル構造を簡単に管理できる仕組みがあったら楽だなと考えています。
───デザインで自分なりのらしさや癖が出るなと思う時意識していることはなんでしょうか?
光を通した空気感、レンズの影響による演出を意識していて、デザインする際の癖になっています。


───加藤さんの映像をつくるきっかけについても伺わせてください。これは自分の原点かも」と思える映像体験はありますか?
小学生の頃、アマチュアのストップモーション特集をテレビで観て、教科書の端にパラパラ漫画を描き始めました。振り返ると、それが自分の原点だったように思います。
───では、映像制作を仕事にしようと思ったきっかけはなんですか?
高校生の頃からいつか海外に住みたいという強い憧れがあり、その手段として映画を仕事にすれば、ハリウッドで働くこともできるかもしれない、と思い、この世界を目指すようになりました。
ちなみに、もし映画を選んでいなかったら、メジャーリーガーになって海外に住むつもりでした。
───メジャーリーガー!その未来も気になりますね(笑)。
───そんな強い夢を持ってこの道に進まれた作品づくりの中で「ここだけは譲れない」と感じている軸があれば教えてください。
流行りや他人の目とかを気にせず、自分が作りたいと思った物を作りたいと考えています。
そうやって作った映像が、観る人の五感を刺激するシーンになれば。そんな思いを込めて映像を作っています。
───次に加藤さんのインスピレーションについてお聞きします。
───映像以外の趣味はありますか?
バイクで日本中を旅行したり、バンドでギターを弾いています。

───バイクで日本中を旅行!すごいですね。そのような経験が作品に影響しているのでしょうか?
そうですね。旅先で出会った人や体験を通して感じた、心に残る景色や空気感を作品に込め、美しい世界を表現したいと思っています。
何かをつくるとき、実際に自分が体験した出来事を通すことで、画に自信と説得力が生まれると感じています。そうした実体験が、まだ技術的に未熟な部分を強く支えてくれています。


───最近「これは刺さった!」という作品はありますか?
F1が最高に刺さりました。前を向いて熱くなれる作品が大好きです。ハンスジマーのサントラも最高でした。
───そんな加藤さんの機材へのこだわりも伺いたいです。
作業用のマシンは、メモリ容量の多いモデルを選ぶようにしています。
撮影機材については、新作が出るたびに買い替えるのではなく、豪快に使い込みながら、必要に応じて修理しつつ、できるだけ長く使いたいと考えています。
───今後取り組んでみたい企画はありますか?
20分くらいの短編映画を撮りたいとずっと思っていて、最近、おおまかなの流れが固まってきて、脚本に進もうというところまできました。
進みはかなりゆっくりですが、実現する日をのんびりと楽しみにしています。
───では最後に、将来の夢はなんでしょうか。
アラスカに行きたいです。
オーロラやカリブーの大移動を観たいです。
また、海外のバイクレースにも出場したいです。
ひと通り世界を見て回ったら、海の見える町でアトリエとカフェが併設したゲストハウスのオーナーになって、今度は旅人や疲れたアーティストを迎える側になりたいです。
そして、これらの経験を通して、いつかベン・スティラーの様な映画監督になって、誰かの心に寄り添える映画を撮りたいです。

インタビュー対象者
加藤晃介
Compositor
フリーランスのコンポジター。Megalisでの活動を経てMPC、そしてKASSENへと活躍の場を広げ、幅広い現場で能力を発揮している。これまで培ってきた技術と表現力を武器に、多様な映像表現に取り組んでいる。