Back

CUES

自主制作がクライアントワークを変えるとき。FUKUPOLYの創作術

『Rampage Rally “6sec Burger”』──たった6秒の映像の中に詰め込まれた、“毒気”とユーモア。CGアーティスト・FUKUPOLY(Yasutaka Fukuda)さんは、コンペティションを「大喜利のような場」と捉え、自由な発想で作品づくりを楽しむクリエイターです。
そんなFUKUPOLYさんの柔軟さと、CGへの真摯な探究心について伺いました。

───今回の “6sec Burger”はどのようなきっかけで生まれたのでしょう?

ちょうど企業案件が一区切りついたタイミングで、Clinton Jonesさん主催の3Dコミュニティチャレンジ「Rampage Rally」を知り、参加を決めました。

テーマは「大きなギャップを乗り物で越える」で、車や飛行機、動物系の作品が多くなるだろうと予想し、誰も考えないアイデアで勝負しようと決めたんです。

───そこから“6sec Burger”という発想に?

そうです。

「車、飛行機、動物の真逆のキャラクター」「乗り物に動力を持たせない」、「6秒という尺自体をストーリーの一部に組み込む」など、自分なりの制約を設けて考えました。

その結果生まれたのが、6Sec Burger の高速ハンバーガー生成アニメーションでした。

───ブラッシュアップはどのように行ったのでしょうか。

必ず毎晩レンダリングして動画化し、翌朝チェックしてブラッシュアップを重ねていきました。静止画よりも動画のチェックほうが多くの情報を返してくれるので、無駄なく作業を進めるために、必ず動画でチェックしているんです。

また、海外の大作映画の切り抜きと自分の作品を並べて見比べることも度々行っています。細部の作り込みやライティングなど自分の作品の欠点を客観的に観察できるからです。

また、絵画などから構図や色使いなどの着想を得ることもあります。


制作の哲学は、「毒気」

───デザインで自分なりのらしさが出る時、意識していることはありますか?

自主制作では、販売アセットは極力使わず、小物も全て自作して完全オリジナルな世界を構築したいと思っています。

また、常に作品のどこかに“毒気”を入れたいという意識があります。

今作では「ハイテクノロジーの世界で見え隠れする滑稽さ」や「効率化の先にある矛盾」をテーマに表現しました。

───なるほど。だからこそ、違和感や余白が感じられるんですね。

───では、「ここに魂を込めた」と思える部分はありますか?

とにかくハンバーガーの質感にこだわりました。生肉が一瞬で焼かれたりソースの垂れるアニメーションなども沢山のトライアンドエラーから生み出されました。

あとは、カラーリングにも気を配りました。特に微妙なニュアンス違いの赤色の配色を何度も試しました。

また、壁面が単調に見えないように、彩度、質感違いの赤マテリアルを配置したり、油跳ねが予想される位置の壁面などは光沢を強めにしたりなど、様々な調整を施しています。

───食べ物のCGって、意外と難しそうですね。

そうなんです。

静止画だと美味しそうでも、動画にした途端とても食品には見えないCGになってしまうんです。CG人間に感じる不気味の谷の様な「違和感」を払拭するためにかなり苦労しました。

でも、食べ物のCGを作った経験はあまりないのですが、意外とイケるなと思いました。

───やはりその完成度があるからこそFUKUPOLYさんの作品は話題を呼ぶのだと思うのですが、SNS時代に合わせて、作品作りで意識していることはありますか?

SNS映えを狙っているわけではないのですが、メイキングを作るようにしています。

どう作ったかを残すことは、自分の学びの整理にもなりますし、AI映像が増えている今だからこそ“人間が作った痕跡”を残すことが大切だと思っています。

───確かに、制作の過程を見ると、その人らしさや手の感覚が伝わってきますよね。ではここからは、FUKUPOLYさんご本人について伺わせてください。

───まず、CG制作に興味を持ったきっかけを教えてください。

大学の卒業制作で宇宙ステーションを設計した際に、3DCGを使用したのが最初のきっかけです。CGは独学で、最初はShade3Dから始め、Lightwave、Cinema4Dと移り、昨年からBlenderをメインに使用しています。

───作家として活動を始めたのはいつ頃でしょうか?

2001年の横浜トリエンナーレで、巨大バッタのCG制作を担当させていただいたことが転機でした。そこからアート寄りのCG作家としてキャリアをスタートしました。

その後、MVやCMなど企業案件の制作を経て、3Dプリント彫刻作品なども手がけ、SICFや六本木ミッドタウンアワードなどで展示もしています。

───クライアントワークと自主制作、どちらもたくさん手がけていらっしゃいますが、両者の違いはどのように感じていますか?

クライアントワークは、自主制作で身につけたスキルを活かす「サービス業」だと考えています。

クライアントワークの中でもスキルアップは十分に可能ですが、どうしてもスキルの方向性が偏りやすくなります。新しい手法や表現に挑戦するにはリスクが伴うため、冒険しにくい側面もあります。

そのため、私の場合は定期的に自主制作を行うことで、クライアントワークにも還元できる表現力を広げています。

また、完全な自主制作ではテーマ設定から脚本まで全て自分で考える必要がありますが、「コンペティション」はテーマがあらかじめ決まっているため、「大喜利」のような感覚でアイデアやスキルを競うことができます。そうした理由から、私はコンペへの参加を好んでいます。

───仕事とプライベートの両立はどう意識されていますか?

仕事は朝8時半から夜8時までと決めています。特にエネルギーの使う仕事は午前中に全部済ませて、午後は事務的な仕事や学習や資料収集の時間に充てています。

土日祝日は完全休養。アート鑑賞や博物館巡りなどしてます。

壁にぶつかったときも、まず第一にCG制作から離れます。公園に行ったり、山登ったりなど自然に触れて気分転換することが多いです。

───最近見たもので「これ、自分には刺さるな」と思ったものはありますか?

最近では『哀れなるものたち』が刺さりました。

好きな作品はアンドレイ・タルコフスキー作品、ユーリ・ノルシュテイン作品、「不思議惑星キン・ザ・ザ」「ファンタスティック・プラネット」など。ポール・バーホーベン作品も好きです。シニカルな視点やグロさなど、癖のある作品が好きな傾向があるかもしれません。

───最後に、これからクリエイターを目指す人たちへメッセージをお願いします。

「焦ってジタバタしない」

早急な結果や評価ばかりを気にすると、制作過程に苦痛を感じるようになります。

制作過程を楽しめる事が永くCG制作に付き合って行ける秘訣かと思うので、色々な情報に惑わされず落ち着いて黙々と学び続けるのが良いと思います。技術的な変化の激しい時だからこそ、地に足をつけた堅実に学ぶ姿勢が大事だと思います。

自戒の念も込めて。

インタビュー対象者

Yasutaka Fukuda (株式会社FUKUPOLY)

Yasutaka Fukuda (株式会社FUKUPOLY)

CGArtist

武蔵野美術大学建築学科を卒業後、2014年に「株式会社FUKUPOLY」を設立。企業CMやミュージックビデオのCG制作、さらに3Dプリンタを用いた立体造形など、多様な表現を手がける独学のCGアーティスト。

Website X IG

記事執筆者

oshino

oshino

他の記事を見る

前の記事

ミニオンズに憧れた少年が、映像をつくるようになった理由

ポップな動きと愛らしいキャラクターが魅力の、Kakuto Shimizuさんの映像。 学生時代のキャラクターをもとに描いた “Spaner & Nick -play time!-” は、短編ながらも高い完成度で話題に。 ドリームワークス作品に衝撃を受けたKakuto Shimizuさんを支える信念、制作の道のりを伺いました。

次の記事

ダンボールから広がる映像表現 —— 『SO-SO – 2025』の映像のきっかけを探る

「ダンボールに落書きしていた子どもの頃の記憶」からきっかけとなった本映像。製作者であるVFX ArtistのKAI INOUEさんの遊び心ときっかけについて聞きました。
HOME