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ダンボールから広がる映像表現 —— 『SO-SO – 2025』の映像のきっかけを探る

「ダンボールに落書きしていた子どもの頃の記憶」からきっかけとなった本映像。製作者であるVFX ArtistのKAI INOUEさんの遊び心ときっかけについて聞きました。

───今回の企画はどんなところからスタートしたのでしょうか?

 SO-SOさんサイドから提示されたキーワードがあったんです。

「紙とかダンボール」、「工作っぽい感じ(ネジや輪ゴムとかもあり)」、「手作り感」、「時計は残す」、「緑・白・黒(白多め)」といったものですね。

そこから「ダンボール」「手作り感」というワードを拾って、発想を膨らませていきました。昔、ダンボールに落書きをして車や家を作って遊んでいたことを思い出して。ダンボールに無造作に絵が描かれた音楽機材というアセットを軸にして展開していこうと思いました。

───そこからスピーカーやアニメーションにつながっていくんですね。

 そうですね。スピーカーって四角いし作りやすそうでちょうどいいなと思って。

そこからは、そのアセットでどんな画面が作れるかや、アニメーションができるかを考えていき、スピーカーの手描きテクスチャが、音楽のBPMに合わせて大小に振動するアニメーションを加えました。

これは「CGならではの表現」として取り入れた工夫です。単に物を作って撮影すれば作れるものとは違ったものを作りたいという、ある意味CGアーティスト的なエゴという意味もあります。

一般的にはエラーとされるオブジェクト同士のめり込みなどもあえてデザインとして取り入れたりとかもそうですね。

また、簡単にですがBlenderのジオメトリーノードを使用してテンポに合わせてオフジェクトの配置が変わるように設計しました。

───最初に「これだ!」と火がついた瞬間はあったのでしょうか。

この作品をネット上で見つけて、ランダムな配置や段ボールに文字が描かれているのを見て、「かっこいいな」と思ったときですね。あと単純にいろんなことを考慮して、限られた期間と求められる企画と僕の技術力でできる範囲が合致したものがこれだったという感じです。

KAI INOUEさんがインターネット上でみつけたダンボールのサイン

───そのひらめきから映像づくりが動き出したわけですね。では、音楽に映像を合わせる際には、どんな点にこだわったのでしょうか。

SO-SOさんの音楽のスタイルがLoopをメインとしているので映像もLoopさせて映像と音楽のシンクロを目指しました。

短期間で作り切るために工数を減らす口実でもあったんですが(笑)、結果的に良い方向にいきました。

Loopしていても飽きない展開のためには最低限いくつシーンが必要なのか、どういう編集にするかは試行錯誤しました。

次に、KAI INOUEさんご自身の映像制作のきっかけについて伺います。

───「これは自分の原点かも」と思えるような映像体験はありますか?

元々映画は好きで毎週末友達と映画を借りて夜通し見る生活をしていました。
高校生のときに、Tao Tajimaさんの『Night Stroll』を真似して映像を作ったんです。それがVFXに興味を持つきっかけになりました。

─── その後、Blenderなどのソフトを触り始めたころ、「これは面白い!」と感じた瞬間はどんな時でしたか?

Blenderに限らずですが、CGをやっていて面白い瞬間は綺麗なライティングができた時です。同じモデルでも、光の当て方一つでまったく別物、別クオリティに見える。その変化が面白いなと感じました。

─── その過程で、独学で学ぶ中、参考にしていた人物や作品はありましたか?

Ash Thorpさんです。

3Dや2Dモーションだけじゃなく、デザインや編集まで含めて一本の作品に仕上げる力(パッケージするセンス)がすごいのでそのスタイルにとても影響を受け参考にしています。

───そうした影響を踏まえて、デザイン面で「自分らしさ」が出るのはどんな部分でしょうか?

タイポグラフィや文字組みは結構好きで、普段の仕事ではあまり機会がないのでこういう時に自分でデザインしてみたりしています。

今回も、段ボールに貼ってあるステッカーなどはデザインしてテクスチャとして反映していたりします。

───その一方で、無意識に出てしまう癖のようなものはありますか?

アイレベルにカメラを置きがちなところですかね・・・。
結構気を抜くと水平2分割構図とか、ありがちな構図になっちゃって、もちろんダメではないんですが、もっと柔軟に構図を探って行けるようになりたいなぁ、と思うところです。


───制作を続けていると壁にぶつかることもあると思うのですが、そういう時は何を見たり、どうやってインスピレーションを得ているのでしょうか。

すごく昔にブックマークした作品からインスピレーションをもらうことが多いです。昔自分がどういうものに興味を持っていたのかを思い出して、ある意味初心を思い出す一環としてたまに見返したりしています。

───そうやって得たアイデアの中で、まだ形にはなっていないけれど頭の片隅にある企画はありますか?

鏡やプロジェクターを使ったギミックのある映像作品をずっと撮りたいと心の片隅で思っています。CGに拘らずいろんな表現を模索していきたいです。

インタビュー対象者

KAI INOUE

KAI INOUE

VFX Artist,CG Artist

2022年にKASSEN入社。Flame Artistとして活動する傍ら、Blender、をメインツールとしてCG Designerとしても活動。 3DCG制作からコンポジットまで幅広い知識と興味関心を武器に、ジェネラリストとしての活躍を目指すルーキー。

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記事執筆者

oshino

oshino

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