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「WAVE」AIと描く日常の改変

撮影した素材に意図的にAIのハルシネーションを起こしたらどうなるか?という発想から生まれたmizunoさんの短編映像『WAVE』。CGとAIを融合させた実験的な映像であり、建物や背景の街並みが歪み、ダンサーが複数人に増幅する複雑なビジュアルが注目を集めています。
AIと映像制作の形を試行錯誤しているmizunoさんの思考に迫ります。

自主制作映像「WAVE」とは

───「WAVE」はどのようなきっかけで生まれましたか?

VOOKさんのイベントでAIをテーマに講演を相談されたのがきっかけです。想像でAIのことを話すより、実際に作った上で自分もAIの現時点での可能性を実感したかったし、骨太な解説したかったから制作し始めました。

2023年くらいから個人的にAIの動向をおっていて、色々テストしているうちに、こういう使い方をしたら面白いかもしれないと頭の中でアイデアを展開していきました。

───そのアイデアをどう仕上げていきましたか?

コンポーザーの菅原一樹さんの作品「axion」を聞いた時に、街が歪むというアイデアのベースが頭の中で展開できるようになりました。

そこで菅原さんに楽曲のお願いをしました。

最初は僕自身「axion」で映像のイメージが頭の中で出来ていたからこそ、それを塗り替えることが難しかったです。菅原さんに想いをぶつけ相談して、結果的に作品に相応しい音楽を作っていただけたので良かったです。

───普段から音楽が作品のきっかけになっていますか?

そうですね、アイデアのブラッシュアップは様々な楽曲からインスピレーションをもらうことが大半です。いつも夜、家路につくときにairpodsを耳にさしランダムに音楽を再生すると、一気に色づいたアイデアが湧いてきます。

この時は気分が高揚してるので、そこで良さそうなイメージを反芻して冷静になるまで頭の中で擦り続けています。

翌日冷静になってから撮影やVFXプランに落とし込みますが、その時実現不可能そうなアラが出てくるので、辻褄を合わせていく時にもう一つアイデアが必要になる場合が多いです。ここに、表現のコアになりそうなアイデアが潜んでいることが多いです。

制作秘話

───制作を始めた当初、面白いと思った瞬間はありますか?

ComfyUIからの出力結果で街が立体的に歪む瞬間を見た時には思わず、声を出して驚いてしまいました。

今回の手法は静止画に対してX,Y座標軸の変化を部分的に与えることで、指定した箇所が変化するというものです。ものすごく平面的な数値なのに、画像が立体的であればあるほど、立体的な変化が起こるものになっています。

冷静に考えると過去そういう表現は映画でもMVでもあったので勘違いなのですが、この独特な歪み表現って、世界で最初に発見しちゃったかも?と密かな興奮を会社の片隅でしていました。

でもそれくらい毛が逆立つ感覚を味わえたのは良かったです。長年映像の編集をやっていると、あらかた2Dでのビデオエフェクトは試してきたので、驚くことがあまりないのですが、オープンソースの技術を掛け合わせる事によって無限の可能性があると気づきました。この時は誰も足を踏み入れてない雪原が目の前に現れた気分でした。

───制作をしていて印象に残っていることはありますか?

今見るとアラが結構あるのでまだ冷静に見れないですが、TOYOTAKAさんのダンスが素晴らしくて本当に助けてもらえました。僕の曖昧なディレクションに対して、的確かつ、斬新なダンスを瞬間的に考えて体現してくれました。一流のダンサーってこういう人の事を言うんだなと感動しました。

───テスト撮影や試作は行いましたか?

テストや試作はゼロでやりました。思ったように歪まなかった場合のプランCまでは考えていたので、なんとかなると思って制作しました。

現場での即興性を大事にしたかったので、事前準備も必要なもの以外ほぼゼロです。普段は絶対にやりませんが、せっかくの自主制作なのでいつもならしっかり準備する真逆のスタイルで挑みました。

mizunoさんの創作の原点

───映像に共通するテーマはなんですか?

日常の改変です。

同じ被写体でも、ドキュメンタリーのように手持ちで撮影する人もいるし、三脚できっちり撮影する人もいて、印象がまるで変わるように、VFXでもアプローチ次第で普段の日常を違う角度から表現できると思っています。

───原点だと思う映像があれば教えてください。

アニメーション作品の「MEMORIES」や フランスの映画監督ミシェルゴンドリーとイギリスの映像作家クリス・カンニンガムは自分のヒーローです。また、2000年〜2010年のMV全般も原点になっていると思います。

2000年代初期はまだYouTubeもなかったので、MVを見るにはMTVか深夜のTV番組しかなかったです。

当時まだアシスタントだった私は、仕事のリファレンスとして海外の面白いCM作品を集めたSHOTSというDVDをダビングしたりして集めたり、onedotzeroという世界中の面白いMVや、東京のいけてる映像を流す祭典を見て必死で記憶をして反芻していたりしました。

───当時を振り返って、印象に残っている経験を教えてください。

会社員2年目で音楽ライブ用の背景スクリーン映像制作が自分のメインの仕事だった時です。自分のキャリアの根幹をもっとも支えているのはこの時期だと思います。

物量が莫大で大変な上に予算も限られていたので、撮影素材すらない事が多く、徹夜もあり他の先輩エディターはあまりやりたがらない仕事でした。大体はロイヤリティーフリーの素材集を紙袋いっぱい渡されて、この曲とこの曲はこの海外の映画のOPを参考にして!と言われて、つまり上手くパクってくれという事でした。

なので参考資料をコマ送りでみて、その技法をマネしたりするのを2年くらい毎日のようにやっていました。

当然予算のある映像をいくら参考にしても、こちらの素材は空や宇宙や都会の写真素材集しかないわけなので、全然同じようになるはずもなかったです。だからこそ、そこを工夫して擬似的に炎のようなエフェクトを1から作る能力を強制的に磨く事ができました。

映像の基礎技術が飛躍的に伸びた時期でしたが、本当は素材集をこねくり回す毎日ではなく、撮影された素材を合成するようなCMやMVもやりたくて、ずっと悶々としていた日々でした。

この時期の経験が今の自分を助けてくれるとはその時は気づかなかったですが、貴重な経験でした。

───制作していて自分の癖やらしさが出ることはありますか?

長年のコンポジター、編集者としての手ぐせがあり、例えばグローやグレーディングのトーンなどがあります。なるべく手ぐせは捨てたいと思っていますし、少しでも新しくて良い表現がないか探っています。

普段の制作

───制作をしていて譲れないポイントはありますか?

作業をサボることです。サボる事で自分も休めるし、結果的により追い込んで集中してクオリティ上がるので一石二鳥だと思って、あえて日数を絞っています。やらなきゃいけない作業があるのに!と思いつつサボるのが一番気持ちがいい瞬間です(笑)。

───参考にしている人はいますか?

橋本麦さん、細金卓矢さんの二人の作品はいつも参考にしています。

作風ももちろんですが、作家としてオリジナルを体現しているところに憧れています。新作をもっと見たいと渇望しています。

───まだカタチになってないけど、ずっと頭の中にある企画はありますか?

仮想の鏡を使った企画です。まだ上手く説明できないです。

───クライアントワークと自主制作での違いはありますか?

クライアントワークはほとんどの場合、映像上の課題が最初からあって、それをVFXで解決する事が仕事の大半です。反対に、自主制作は全て自分で課題を作り、解決をしないといけません。

クライアントワークでは、ディレクターが望む表現とクライアントが望む表現が正反対の時に、両タイプ作ることがあります。その時に、実は正反対のはずの二つの表現が少しだけ重なる箇所があって、それを見つけて提案するとみんな納得して、表現も良くなる時があり、これがクライアントワークの面白いところです。

先回りしておくと振り回されないで済むし、その案で決まった時は脳汁が出てとても楽しいです。

自主制作はオフラインの時が一番辛いです。なぜこのシーンを撮ったんだ。なぜあの時こうしなかったんだ。と編集で繋いだ時に自分の能力不足がはっきりと見えてきます。

VFXが入る前なので本当にこれでいいのかと思い、一度、仮でVFX入れて繋いでみたりしましたが、時間かかりすぎだし、編集が先に決まらないと音楽の発注もできないのでとても難しかったです。

最後に

───壁にぶつかった時にはどう乗り越えていますか?

ひたすら壁を打破するまで手を動かし続けています。

その報酬として、モニターの前にへばりついて作業した後の帰宅時の街を肉眼で見ると、とてつもない解像度で光も美しく綺麗だと感動できます。

インタビュー対象者

Masaki Mizuno

Masaki Mizuno

Khaki CEO / flame artist

岐阜県出身 IMAGICA永田町スタジオにてFlameを軸にキャリアを始動。 独立後、2012年に同級生とKhakiを結成。VFXを中核に表現の幅を広げ、2016年に法人化。 2025年、拠点を虎ノ門へ。現在もなお映像表現の最前線でプレイヤーとして活動し続けている。

X IG Youtube

記事執筆者

Akiko Oshima

Akiko Oshima

Interviewer / Designer

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